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ロンドン生活開始から4年強経過。あこがれの田舎暮らしも敢行!このまま骨を埋める展開か??インベストメントバンカー日々迷走中。


by canary-london
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コンサート報告その6: 小川典子氏

6月30日は、City of London Festival 2006の一環として開催された、日本が世界に誇るピアニスト・小川典子氏のコンサートに誘われて出掛けた。
(図々しくその後の典子さんを囲むディナーにも参加。Oさん本当にいつも有難うございます!)

1962年以来続けられているCity of London Festivalの今年のテーマは、「Trading Places: London - Tokyo」ということで日本が前面に。
既にロンドン在住の様々な方がブログ等で取り上げられている通り、目玉の一つであった6月28日の安藤忠雄氏の講演会など、日本をテーマとしたイベントの数々が6月26日~7月13日までの二週間半にわたって催されている。

「日本」というテーマに沿って選ばれたのは、以下の曲目:
Rentaro Taki:Menuet
            Grudge
Debussy:Images, Book 2
Dai Fujikura:Returning (world premiere)
Takemitsu:Closed Eyes 1&2
Prokofiev:Sonata No. 7
<アンコール Debussy:Clair de Lune-月の光>

1. MUSIC
前述のOさんをはじめ、プロの批評家の方々がコメントをされることと思うので、素人の感想を一言ずつだけ。典子さんの演奏については素晴らしい!の一言だったのだが、何しろ聴いたことのない曲ばかりなので、演奏よりもむしろ音楽についてのコメントになってしまうことをご容赦頂きたく。

滝廉太郎は、恥ずかしながら「荒城の月」「花」など「音楽の教科書」のイメージ以上のものを持っていなかった。1901年に、そのままヨーロッパ社交界のパーティーで流せそうな、こんな音楽を作っていたなんて。脱帽。
ドビュッシーも東洋への傾倒が強く、今回のImages, Book 2の三曲のうちの二曲目は月明りに照らされるインドの寺院を、また三曲目は漆器をイメージしながら描いたものだという。特に二曲目は神秘的な何ともいえない深い味わいの曲。
欧州で広く活躍する若き作曲家・Dai Fujikura氏は、典子さんのためにこの曲を作ったのだと話す。「静かな旋律を弾くときに、ピアノに『歌わせる』ような典子さんの演奏」にインスパイアされたというFujikura氏の斬新な和音使いは、不思議な後味を残した。
そして武満。「新鮮な和音」はここでも続く。
武満については、典子さんが曲の合間に差し挟むwittyなトークの中で披露した、生前の武満氏と話した際のエピソードが何しろ印象的だった。典子さんが「武満さんはどんなピアノを使って曲を作っておられるんですか?」と質問すると、小柄なのに額はやたらに大きい武満氏からは、予想に大きく反して「ヤマハのアップライトです」との答え。「STEINWAYのグランドピアノ」のような模範解答とのあまりのギャップに戸惑った典子さんが「何でまた?」と更に問うと、武満氏はさらに背をすぼめ、神経質そうに「いや、自分で弾く音がうるさいもんですから・・・」と答えたという。
ややブラックな要素すら感じられるこのエピソードにロンドンの聴衆が大喜びしたのは言うまでもない。

最後、プロコフィエフの通称「戦争ソナタ」。
とにかく、「凄い」の一言。
典子さんが演奏前に、「一応警告しておきますが、とても『brutal』な曲ですから・・・」のコメント通り、凄まじい。
怒り。憎悪。
人間のあらゆるネガティブな感情をミキサーにかけてブレンドしたら、こんな感じになるだろうか。
必然的に超絶技巧になる上、その激しさから2分も弾けば腱鞘炎になるだろうと思われる曲を、ミスなく弾いていく。
フィナーレと共に、聴衆からは割れんばかりの拍手。

2. 典子さんについて
何しろ、魅力的な方である。
Fujikura氏の言う通り、静かなメロディは憂いのある抑えた弾き方をされる一方、戦争ソナタのような好戦的なメロディは驚くほど激しい。
そんな表情豊かな演奏に加え、先の武満に関するエピソードからも分かる通り、曲の間には必ず英語で曲の紹介を兼ねた小咄を一言披露されるので、会場の雰囲気が一気に和やかになる。
何てリラックスされているのかと感心したけれど、もしかするとそれは彼女自身が自分をリラックスさせるための一つの手段なのかもしれない。

コンサートが終わると、ドレスからカジュアルなパンツ姿に着替えてのご登場。
その華奢な腕の何処からあの「戦争ソナタ」の音が出てくるのか俄かには信じられないほど、スレンダーで素敵な方である。

ディナーでは席がやや遠かったことと、典子さんは翌日次のコンサートへと出発される予定で早めに帰途につかれたため、残念ながら今回ゆっくりお話しする機会はなかったけれど、皆で話していても飾る部分が全くない。
『Newsweek』誌・日本版が選ぶ「世界が認めた日本人女性100人」(2006年6月28日号参照)のお一人であるとは全く思えない気さくさである。
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3. セッティングについて
今回の会場はSt. Botolph without Bishopsgateという名の、Liverpool St駅から程近い教会。
正面のステンドグラスといい、緑豊かな中庭といい、なかなか素敵な教会だと皆で同意してぐるりと眺めたのだが、帰宅して幾つかネットで調べてみても、「(詩人のJohn) Keats氏が洗礼を受けたこと以外は特筆することのない教会。1666年の大火で破損した後、1720年代に復元。」なんて書かれている。
シティは確かに、St. Paul’s大聖堂をはじめとして、有名・大規模な教会が驚くほどたくさん存在するので、どうやらここは何ら特別ではないらしい。 こんなところは、ロンドンの「Square Mile」、何とも贅沢である。

それにしても、こんなシティのど真ん中の教会にスタインウェイのグランドを搬入して舞台を整えてもらった挙句、数十人程度の少人数でこんなに素晴らしい演奏を堪能してしまったなんて、何だか「独り占め」感満々。

4. 英国人的日本人のサークル
Oさんが声を掛けて下さって集まる面々は、Oさんご自身が素晴らしいフルートの腕前を披露された前回のコンサートでもお会いした多種多彩な方々に加え、国際結婚のご夫婦でピアノ連弾をされているピアニストのカップルなど、またも興味深い方々と知り合いになることが出来た。

Oさんへの感謝の念と共に、本日発見したこのグループの特性をもう一つ。
地下鉄の駅入口にて、皆散り散りの方向へと向かう。
お別れの挨拶は、男女問わず軽くハグ(抱擁)を交わす。
こちらに来てから、外国人とはごく普通に挨拶のハグとキスを取り交わすけれど、日本人が相手になると、これはまずあり得ない(日本カルチャーどっぷりの相手なら、痴漢と間違われるか、或いは相手に変な好意を持っていると勘違いされるかが関の山である)。
しかしながら、ごく自然なハグのやり取り。
こういうことが自然に出来るって、素晴らしいではないか。

英国暮らしが長い人が多いことが理由だと思うのだが、何だか心が温まった気がして一人家路についた。
by canary-london | 2006-07-11 09:48 | music