ロンドン生活開始から4年強経過。あこがれの田舎暮らしも敢行!このまま骨を埋める展開か??インベストメントバンカー日々迷走中。


by canary-london
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たかがハンカチ、されどハンカチ・・・

2-3週間ほど前の話になるが、風邪を引いてしまった。
何だかこのブログには風邪の話ばかり書いているような気がして、本人を知らない人からみると病弱な人間という誤った印象を与えているかもしれないが、実のところ驚くほど丈夫である。
おそらくは、風邪を引くと珍しいのでついついブログに書いてしまう傾向があるのだろうと思う。

風邪といったところで、私の場合は寝込むことは少なく、風邪を引くと大抵咳と喉の痛み・鼻水が主な症状となる。
子供の頃喘息もちだったためか、気管支が比較的弱いのである。

5月半ばのある火曜日、そんなしつこい咳を抱え、夜はBarbican Hallでのコンサートを控えて不安な気持ちで日中仕事を進めていた。
おまけに、よりにもよって楽章の合間を縫って咳をする時に欠かせないハンカチを忘れたらしく、ハンドバッグを探っても見当たらない。
同じチームで机を並べて働くアメリカ人女性上司も同じ時期風邪を患っており、彼女が
「そこの薬局まで行くけど何か買ってこようか?」
というので、とっさに
「’Boots’(チェーンの薬局)」にハンカチなんて置いているかな?}
と言うと、彼女は怪訝な顔。
「ハンカチって・・・handkerchiefだよね?(確かに、この言葉自体自分も英語で口にしたのは久し振り。こちらでは殆ど耳にしない。)売っているとしたら、Bootsではなく’Hackett’(比較的若者向けのスマートカジュアルな紳士服店)あたりじゃないの?」
と彼女。

そうか。
ハンカチとポケットティッシュを身だしなみとして携帯するのは大和撫子のみ。
イギリスでもアメリカでも、確かに「ハンカチ=男性の持つもの」というイメージが先行するのだ。
もっとまずいことに、ここ英国では遥か昔から、山高帽にステッキ姿の由緒正しきジェントルマンはポケットからハンカチを取り出して、おもむろに鼻をかむものと相場は決まっている。
勿論私は、出掛けの彼女に対して即座に
「あの、鼻をかむためではなくて・・・」
と訂正したわけだが。

ややあって戻ってきた彼女は、小脇に‘Hackett’の包みを抱えている。
「何しろ紳士物だから・・・これでもなるべく女性っぽいものを選んだんだけどね。好きな方を選んで。」
の言葉と共に、何ともご丁寧に一枚一枚リボンをかけられて個別に包装された‘handkerchief’二枚が顔を覗かせる。

彼女の優しさが身にしみて・・・という展開であれば、美しい感動物語の一つや二つ生まれるのかもしれないが、あくまで現実主義者の私の目は値札へと注がれる。
当地の物価の高さについては日頃から文句を言っている通りだが、このハンカチが9ポンド(現約240円換算で約2,140円)なんて・・・。
日本では、1500円出したらこの10倍ぐらいお洒落なハンカチが買えるっつーの。

話の顛末はというと、この上司の愛情たっぷりのハンカチの効果も空しく、コンサート会場で自分の咳が止む気配はない。押し殺して咳をするので、益々苦しくなる悪循環だ。
そんなわけで、この日は泣く泣く途中のインターバルで会場を後にした。

ちょっとした後日談。
何と、この当地で耳にすることの少ない‘handkerchief’という言葉を次に聞いたのは、私が途中退場してしまった日の指揮者・Sir Simon Rattle氏の口から、一週間後のとあるオペラ公演でのことだった。
インターバルに入ろうという時、
「今日は風邪の方が多いようですね。恐れ入りますが、周囲のことを考えて咳をするときにはhandkerchiefで口を押さえて下さるようお願いします。」
とRattle氏。
Rattle氏は、ノッてくると唸り声のような声を出す癖があるので、オケピットに近い聴衆からは「観客の咳よりも唸り声の方が大きいのでは?」なんて皮肉交じりのブーイングも聞かれたが、それにしても「ハンカチ事件」から一週間後に同じ指揮者からこの言葉を聞かされた私はびっくりしてしまった。
幸いにもこのときには咳はほぼ完治しており、おそらくRattle氏の注意の矛先は私ではない観客に向けられていたことと思いたいが・・・。
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by canary-london | 2007-06-05 02:20 | culture