成り立つ需給: 陽気な靴磨き職人
2006年 10月 10日
イメルダ(故・マルコス元フィリピン大統領夫人・靴の収集癖あり)ばりに靴を所有している*と、最も困るのは、保管場所もさることながら、その整理及び管理である。
1. 踵の修理: ロンドン・ストリートは非常に歩きにくいと感じるのは自分だけだろうか。例えばプラハのように街全体が石畳というのなら靴に優しくないのも頷けるのだが、ロンドンはアスファルトや階段の溝の微妙な間隔がどうにも頂けない。自分が人一倍そそっかしいことは(百歩譲って)認めるが、それにしても溝やマンホールに細いヒールが見事に挟まり、0時前のシンデレラ状態となることなど日常茶飯である。
もっとも、腰によろしくないと分かってはいながらもついつい細めの9センチヒールばかりを選んで履いてしまう自分にも責任の一端はあるのだけれど。
ともあれ、そんなウォーキングスタイルでは当然ながら靴の傷みが激しい。
具体的には、ヒール底部の磨耗(更に放置しておくと中の金具が突き出してきたりする)、およびヒールのボディに当たる部分の革が剥けてくるというトラブルが尽きない。
そんなとき便利なのが、待っている間に靴の修理を行ってくれる靴修理店。
東京に住んでいたときには、自宅から目と鼻の先にある新宿・小田急百貨店3Fの職人工房に大変にお世話になっていた。東京同様、ロンドンにも街中にこの手の靴修理店はたくさんあることはある。また預けた靴はその場で修理してくれるので有り難いことには違いないのだが、作業内容は日本に比べてかなり荒いのも確か。
昨年フィレンツェで購入したフェラガモのバックストラップ付のサンダルから針金が飛び出してしまい、針金が足首に触れてストラップが血に染まってしまったので困って持ち込んだ夏の初め。
職人のオジサン、おもむろにニッパーのような物を持ち出すので何をするのかと思いきや、突き出した針金の全体をバックストラップからずるずるずるずるっっと引きずり出してしまった。
出てきた針金は、ゴミ箱へ直行・・・。
「あのー、その針金って何らかのレゾンデートルがあってそこに入っているのだと思うのだけど」と私。
「いや、サンダルのバックストラップにこんな針金が入っているのは自分の靴職人人生において見たことがない」とオジサン。
以来針金に悩まされることはなくなった訳だが、何か根本的に靴の構造を変えてしまったような。いいのだろうか。
2. 靴磨き
靴の数が多いと、もう一つ悩まされるのは靴磨きという作業である。
村上春樹の小説の主人公がよく「混乱したときにアイロンがけをする」のと同様に、靴磨きという作業は何か無心に作業に没頭することが出来て何とも楽しい。
とはいえ、暇を持て余した学生時代でこそ一週間に一度靴をずらっと並べて黒と茶と無色に分類してぴかぴかに磨き上げたものの、忙しい社会人たるものはっきりいって週末にそんな優雅な時間は取れないのが現実。
街角の「靴磨きのおじさん」にはあまりお世話になったことがなかったのだが、本日は踵修理要のパンプス三足を持参して出勤すると、ディーリングルームの女性の御手洗いの入口付近に恰幅の良いお兄さんが陣取っている。
そういえば。
この人、良く男性物の革靴を磨いているなあ。
要は、我々のようなサラリーマンのオフィスを(おそらくは通行証のようなものを持っているのだろう)職場とするナガシの靴磨き職人。
タイミング良くパンプスを持っていたこともあり、ふと「一度頼んでみようかしら」という気になった。
スウェードのものは残念ながら「こいつは無理」と突き返されてしまったが、他の二足はなかなかどうして満足のいく仕上がり。
一足2ポンドという靴磨き代金は正直高いのか安いのか良く分からないが、全ての物価が驚異的に高騰しているロンドンゆえ、リーズナブルに感じられる。
このお兄さん、通りがかる我が同僚達の靴を依頼されるがままに磨きながら2ポンドx??をしっかり稼ぐ。
小脇にはIpod。
勤務時間は9時―15時といったところか。
何ともマイペースで場当たり的な、でもシアワセそうな生き方を見て知らず笑みがこぼれてしまった。
こんな光景をオフィスで目にすると、決まって思い出すのは私を採用してくれた米国人上司・A氏がいつかしてくれた話。
私は弊社に入社したのは2001年のことだったので残念ながら米国が好景気に沸いた1990年代後半の「良き時代」は過ぎてしまっていたのだが、A氏が入社した90年代前半から後半に業界全体が軒並みコスト削減に走るまでは、毎朝ディーリングルームにデニッシュやらフルーツやらコーヒーやらを満載したワゴンが周回していたらしく。
お昼になると、これがランチメニューに変わる。
当然コストは全て会社持ち(!!!!!)。
今では「接待費は一人当たりUSDxxxまで」などとがんじがらめにされる状況なので、そんな時代は夢のようとも思える。ただ、こんな時代に米国のコンサルティング会社に入社し3週間のシカゴ研修とやらですっかり肥えて戻ってきた後輩を見たときには、必ずしも健康には良くないかもと思ったものだが(笑)。
*イメルダ病について補足兼言い訳。
自分も割合に靴フェチだと思っていた方だが、先日とある知人の保有靴数が「100足」と聞き自分など至ってノーマルだと思うに至った。
しかし、100足。
一年は365日しかないので、100足を均等に履いたとして、二週間に一度も出番が回ってこない計算である。
それも靴としてはちょっと不憫に思ってしまうのだけれど。
1. 踵の修理: ロンドン・ストリートは非常に歩きにくいと感じるのは自分だけだろうか。例えばプラハのように街全体が石畳というのなら靴に優しくないのも頷けるのだが、ロンドンはアスファルトや階段の溝の微妙な間隔がどうにも頂けない。自分が人一倍そそっかしいことは(百歩譲って)認めるが、それにしても溝やマンホールに細いヒールが見事に挟まり、0時前のシンデレラ状態となることなど日常茶飯である。
もっとも、腰によろしくないと分かってはいながらもついつい細めの9センチヒールばかりを選んで履いてしまう自分にも責任の一端はあるのだけれど。
ともあれ、そんなウォーキングスタイルでは当然ながら靴の傷みが激しい。
具体的には、ヒール底部の磨耗(更に放置しておくと中の金具が突き出してきたりする)、およびヒールのボディに当たる部分の革が剥けてくるというトラブルが尽きない。
そんなとき便利なのが、待っている間に靴の修理を行ってくれる靴修理店。
東京に住んでいたときには、自宅から目と鼻の先にある新宿・小田急百貨店3Fの職人工房に大変にお世話になっていた。東京同様、ロンドンにも街中にこの手の靴修理店はたくさんあることはある。また預けた靴はその場で修理してくれるので有り難いことには違いないのだが、作業内容は日本に比べてかなり荒いのも確か。
昨年フィレンツェで購入したフェラガモのバックストラップ付のサンダルから針金が飛び出してしまい、針金が足首に触れてストラップが血に染まってしまったので困って持ち込んだ夏の初め。
職人のオジサン、おもむろにニッパーのような物を持ち出すので何をするのかと思いきや、突き出した針金の全体をバックストラップからずるずるずるずるっっと引きずり出してしまった。
出てきた針金は、ゴミ箱へ直行・・・。
「あのー、その針金って何らかのレゾンデートルがあってそこに入っているのだと思うのだけど」と私。
「いや、サンダルのバックストラップにこんな針金が入っているのは自分の靴職人人生において見たことがない」とオジサン。
以来針金に悩まされることはなくなった訳だが、何か根本的に靴の構造を変えてしまったような。いいのだろうか。
2. 靴磨き
靴の数が多いと、もう一つ悩まされるのは靴磨きという作業である。
村上春樹の小説の主人公がよく「混乱したときにアイロンがけをする」のと同様に、靴磨きという作業は何か無心に作業に没頭することが出来て何とも楽しい。
とはいえ、暇を持て余した学生時代でこそ一週間に一度靴をずらっと並べて黒と茶と無色に分類してぴかぴかに磨き上げたものの、忙しい社会人たるものはっきりいって週末にそんな優雅な時間は取れないのが現実。
街角の「靴磨きのおじさん」にはあまりお世話になったことがなかったのだが、本日は踵修理要のパンプス三足を持参して出勤すると、ディーリングルームの女性の御手洗いの入口付近に恰幅の良いお兄さんが陣取っている。
そういえば。
この人、良く男性物の革靴を磨いているなあ。
要は、我々のようなサラリーマンのオフィスを(おそらくは通行証のようなものを持っているのだろう)職場とするナガシの靴磨き職人。
タイミング良くパンプスを持っていたこともあり、ふと「一度頼んでみようかしら」という気になった。
スウェードのものは残念ながら「こいつは無理」と突き返されてしまったが、他の二足はなかなかどうして満足のいく仕上がり。
一足2ポンドという靴磨き代金は正直高いのか安いのか良く分からないが、全ての物価が驚異的に高騰しているロンドンゆえ、リーズナブルに感じられる。
このお兄さん、通りがかる我が同僚達の靴を依頼されるがままに磨きながら2ポンドx??をしっかり稼ぐ。
小脇にはIpod。
勤務時間は9時―15時といったところか。
何ともマイペースで場当たり的な、でもシアワセそうな生き方を見て知らず笑みがこぼれてしまった。
こんな光景をオフィスで目にすると、決まって思い出すのは私を採用してくれた米国人上司・A氏がいつかしてくれた話。
私は弊社に入社したのは2001年のことだったので残念ながら米国が好景気に沸いた1990年代後半の「良き時代」は過ぎてしまっていたのだが、A氏が入社した90年代前半から後半に業界全体が軒並みコスト削減に走るまでは、毎朝ディーリングルームにデニッシュやらフルーツやらコーヒーやらを満載したワゴンが周回していたらしく。
お昼になると、これがランチメニューに変わる。
当然コストは全て会社持ち(!!!!!)。
今では「接待費は一人当たりUSDxxxまで」などとがんじがらめにされる状況なので、そんな時代は夢のようとも思える。ただ、こんな時代に米国のコンサルティング会社に入社し3週間のシカゴ研修とやらですっかり肥えて戻ってきた後輩を見たときには、必ずしも健康には良くないかもと思ったものだが(笑)。
*イメルダ病について補足兼言い訳。
自分も割合に靴フェチだと思っていた方だが、先日とある知人の保有靴数が「100足」と聞き自分など至ってノーマルだと思うに至った。
しかし、100足。
一年は365日しかないので、100足を均等に履いたとして、二週間に一度も出番が回ってこない計算である。
それも靴としてはちょっと不憫に思ってしまうのだけれど。
by canary-london
| 2006-10-10 08:28
| cravings